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集中力・注意管理

注意をコントロールする — 気が散る仕組みと、戻ってくる技術

気が散るのは意志が弱いからではない。注意残余とタスク切り替えコストの仕組みを踏まえ、作業に戻るための再現可能な手順を示す。

Deep Work Systems Academy 編集部 約5分

集中が切れた瞬間、多くの人は「自分の意志が弱いからだ」と考える。だが認知心理学の知見を見る限り、それは正確ではない。注意が逸れること自体は誰にでも起きる現象であり、問題は逸れた後に戻ってくる手順を持っているかどうかにある。この記事では、気が散る仕組みを整理したうえで、作業に戻るための具体的な手順を扱う。

要点

タスクを切り替えると、前の作業の「注意残余」が次の作業のパフォーマンスを下げるという研究がある。中断からの復帰には数十分単位の時間がかかるという報告もあるが、個人差・状況差が大きく一律には当てはまらない。有効な対処は、切り替え前に「次に何をするか」を一言メモしてから離れること、戻る際は同じ場所・同じ最初の一手から再開すること。ただし緊急対応が多い職種では、この手順自体が現実的でない場合がある。

気が散った先で何が起きているか

ワシントン大学のソフィー・ルロワは、あるタスクを終える前に別のタスクへ切り替えると、前のタスクへの注意の一部が残り続け、次のタスクの成績を下げることを報告した※1。これは「注意残余(attention residue)」と呼ばれる。特にタスクが未完了のまま、時間的な圧力の中で切り替えた場合に残余は大きくなりやすいとされる。人間の脳は、複数の作業を同時にこなしているように見えて、実際には短い単位で注意を切り替えているに過ぎないというのが、米国心理学会(APA)がまとめる研究群の一致した見解でもある※2

この切り替えには、コストがかかる。切り替えのたびに数十分の一秒からの遅れが積み重なるという実験結果があり、単発なら小さくても、繰り返される切り替えは作業全体の速度と精度を落とす※2。カリフォルニア大学アーバイン校のグロリア・マークらがオフィスワーカーを観察した研究では、一度の中断から元のレベルの集中に戻るまでに、平均で20分を超える時間がかかったと報告されている※3。ただしこの数値は特定の職場・タスクの観測にもとづくものであり、業種や作業内容によって幅があることには注意が必要だ。

中断には二種類ある

気が散る原因は、外的中断と自己中断の二つに分けて考えると扱いやすい。外的中断は、通知・声掛け・会議の呼び出しなど外から来るもの。自己中断は、自分から関係ないタブを開いたり、思いついた別件に手を出したりする行動だ。観察研究では、実は自己中断のほうが多く発生するという指摘もある。外的要因の遮断だけに集中力対策を寄せると、自分自身が引き金になる中断を見落とす。

作業に戻るための手順

戻り方を仕組み化すると、注意残余の影響を小さくできる可能性がある。手順は次の三段階。

1. 中断が入る、あるいは自分から離れる前に、「次にやる最初の一手」を一言だけメモに書く。頭の中に置いたままにしない。
2. 戻ってきたら、まずそのメモを読み、考えずに書いてある一手から再開する。状況を俯瞰し直すところから始めない。
3. 再開後の数分は、前のタスクの続きを考えないと決めておく。未完了のまま残った作業は、後でまとめて処理する時間を別に確保する。

この手順が効く理由は単純で、「どこから再開するか」という判断そのものが注意を消費するからだ。判断をあらかじめメモという形で外部化しておけば、戻った瞬間の意思決定コストを減らせる。

この手順が効かない場面

もっとも、この手順は万能ではない。緊急の問い合わせ対応やカスタマーサポートのように、中断そのものが業務の中心にある職種では、そもそも「作業に戻る」という前提が成立しにくい。また、感情的に重い出来事による中断(トラブル対応や深刻な連絡など)は、メモ一つで注意残余が消えるものではない。そうした場合は、作業手順の工夫よりも、業務の割り振りや休憩そのものを見直すほうが現実的だ。

次の一歩

気が散る要因のうち、通知やスマートフォン、ブラウザのタブといったデジタル環境側の設計については、デジタルの気が散る要因を減らすで具体的な設定を扱っている。また、そもそも「深い仕事」と「浅い仕事」をどう区別し、どちらに注意を配分するかという前提については、ディープワークとは何かを参照してほしい。注意のコントロールを体系的に身につけたい場合は、当校のディープワーク基礎講座でも扱っている。

参考文献

  • Sophie Leroy. "Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks." Organizational Behavior and Human Decision Processes, Vol. 109, No. 2, 2009.
  • American Psychological Association. "Multitasking: Switching costs." apa.org/topics/research/multitasking
  • Gloria Mark, Daniela Gudith, Ulrich Klocke. "The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress." Proceedings of CHI 2008.
  • Cal Newport. Deep Work: Rules for Focused Success in a Distracted World. Grand Central Publishing, 2016.

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