深い集中に入るための準備 — 環境・時間帯・入りのルーティンを設計する
集中ブロックに毎回同じ手順で入れるよう、環境・時間帯・開始トリガーを設計し、集中できない日の対処法も含めて手順化する。
「今日は集中する」と決めた日ほど、PCを開いてから実際に手が動き出すまでに時間がかかる、という経験は珍しくない。原因の多くは意志力の不足ではなく、集中状態に入るための手順が毎回その場しのぎになっていることにある。環境・時間帯・開始の合図を事前に決めておけば、集中に入るまでの迷いをかなり減らせる。
深い集中に入るための準備は、環境(場所・視界・音)、時間帯(自分の覚醒度が高い時間)、開始トリガー(毎回同じ手順で始める儀式)の3つを固定することで再現性が上がる。集中できない日は無理に続けず、15分だけ試す・タスクを分割するなどの代替手順をあらかじめ決めておくと立て直しやすい。ただし環境や時間帯を完全に自由に選べる働き方は一部に限られ、誰もが同じ手順を再現できるわけではない。
環境を「毎回同じ」に近づける
集中のための環境設計で効果があるとされているのは、特別な道具ではなく「毎回同じ状態に近づける」ことだ。作業場所、机の上に出すもの、スマートフォンの位置をあらかじめ決めておくと、脳が「ここに来たら集中する場面だ」と結びつけやすくなる。カル・ニューポートは著書『Deep Work』で、儀式化された環境設定が深い集中への切り替えコストを下げると述べている※1。通知や音による中断がどれほど戻りにくさを生むかは、UCアーバインのグロリア・マークらの観察研究でも報告されており、作業を中断された後、元の集中状態に戻るまでに時間がかかる傾向が示されている※2。時間の長さは調査条件によって幅があり、常に同じ長さがかかると断定はできない。
時間帯は「意志力」より「自分のログ」で決める
一般論として朝が集中しやすいとよく言われるが、個人差が大きく、断定できる根拠は限定的だ。実務的なのは、1週間ほど作業ログをつけて、自分がどの時間帯に最も作業がはかどったかを記録することだ。
18:00 就寝前に翌日の深い仕事タスクを1つだけ選ぶ
翌朝 起床後、メール・SNSを見る前に着手する
90分 タイマーをセットし、通知はすべてオフにする
終了後 何分作業できたか・何が中断したかを1行だけ記録する
この記録を2週間ほど続けると、自分にとって現実的な時間帯と長さが見えてくる。理想の朝型を目指すより、実際に続けられた時間帯を採用するほうが再現性は高い。
開始トリガーを1つに固定する
集中に入る合図は、複雑である必要はない。コーヒーを入れる、特定のプレイリストを流す、タイマーを押すなど、毎回同じ1つの行動を「開始の儀式」として固定するだけでよい。もっとも、儀式を増やしすぎると準備自体が新たな先延ばしの口実になる。3ステップ以内に収めるのが目安だ。
集中できない日への対処
手順を整えても集中できない日はある。そのときは無理に90分を守ろうとせず、まず15分だけ試す、タスクをさらに小さく分割する、場所だけでも変えてみる、のいずれかに切り替える。一方で、集中できない日が何日も続く場合は、時間帯や環境の設計そのものが合っていないサインでもある。手順を疑い、ログを見直すきっかけにするとよい。
次の一歩
そもそも深い仕事と浅い仕事の区別がまだ曖昧なら、ディープワークとは何かで用語を先に整理しておくと、この準備手順の狙いがつかみやすくなる。個々の集中ブロックを1日全体のスケジュールにどう組み込むかは一日の仕事を設計するで扱っている。ディープワーク基礎講座では、この準備手順を自分の生活リズムに合わせて調整するワークを行っている(/course/)。
参考文献
- Cal Newport. "Deep Work: Rules for Focused Success in a Distracted World." Grand Central Publishing, 2016.
- Gloria Mark, Daniela Gudith, Ulrich Klocke. "The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress." Proceedings of the ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems, 2008.
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